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ドイツではナチス禁止という原則


う…うろたえるんじゃないッ!ドイツ軍人はうろたえないッ
政治や宗教の話は
しないほうが無難

数年前、ドイツの小さな街のカフェで夫とオランダ人の友人と私の3人で座っていた時の話です。オランダ人の友人T氏は優秀なエンジニアで、ユーモアのある面白い人物なのですが、少々耳が遠いため大声で話す傾向があります。この日も楽しく話をしていて、元はどんな話題だったのか覚えていませんが、テーマが国籍や人種に向いたとき、ドイツ人の夫が社会保障目当ての外国人流入を嘆くような発言をすると、T氏は大声で「君はまるでナチじゃないか!」とツッコミを入れました。その瞬間カフェの中が静まり返り、しばしの静寂の後、他のお客やウェイトレスは再び話を始めて元の雰囲気に戻りましたが、私達は何となく居心地が悪くなったので、急いでケーキを食べ終えて勘定を済ませ、そそくさと店を後にしました。

ドイツはもちろんのこと、ヨーロッパは「ナチス」の扱いに非常に敏感です。オーストリアにはいわゆるナチス禁止法という法律があり、NSDAP(国家社会主義ドイツ労働者党 Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei)の禁止と脱ナチズムを法律で定めています。ヨーロッパ全体でもナチスのシンボルや極右組織を禁止する法案が随時議論されており、イスラエルでは「ナチ」という罵り言葉を使っただけで罰せられる法律を作る動きがあります。ドイツでは刑法第86条、86a条(StGB §86, 86a)で「憲法秩序に反する団体組織のシンボルの使用」について細かく定められており、違反すると罰金か最大で懲役3年が科せられます。「シンボル」には旗、マーク、制服、言い回し、挨拶や敬礼などが含まれ、「禁止された政党、団体のシンボル」「過去の国家社会主義団体のシンボル」「取り違える可能性のある似通ったシンボル」を使用してはならないとあります。具体的には「ハーケンクロイツ」「ハイルヒットラー」「ジークハイル」「ホルスト・ヴェッセル・リート(ナチスの党歌)」「ヒットラー敬礼/ドイツ敬礼(右掌を平らにし、目の高さに斜め上に真っすぐ伸ばす)」といった事柄が挙げられます。

ドイツの車のナンバープレートはアルファベットと数字の組み合わせで成り立っており、最初の1〜3字のアルファベットは登録地域を表わすためあらかじめ決められていますが、それに続く1〜2字のアルファベットと数字は自由に選ぶことができます。しかしここにも規則があり、ナチスを連想させる文字の組み合わせは申請しても許可されません。例を挙げると、
NS Nationalsozialismus / ナチズム
SS Schutzstaffel / 親衛隊
SA Sturmabteilung / 突撃隊
HJ Hitlerjugend / ヒトラーユーゲント
KZ Konzentlatonslager / 強制収容所
AH Adolf Hitler / アドルフ・ヒトラー
HH Heil Hitler / ハイル・ヒトラー
などです。AHはノルトライン・ヴェストファーレン州のアーハウスという街の名前なので登録地域としては存在します。HHも同様に、ハンブルク(ハンザ同盟市ハンブルク、でH2つ)のナンバーとして存在するので、これは仕方ありません。シュトゥットガルト市のナンバーはSですが、合わせて並べるとSSになるため、同市の交通局で自由アルファベットにS1字を選ぶことはできません。

自ら進んで法律違反のシンボルを掲げなくても、偶然の産物で法律に触れそうな事態が起きることもあります。故意か無意識か、際どい商品が世に送り出されてしまった例をいくつかご紹介しましょう。





有名な洗濯洗剤ブランド「アリエール」が2014年のサッカーワールドカップのキャンペーンとして限定パッケージの洗剤を売り出しました。箱をサッカーユニフォームに見立てた増量パックで面白い企画なのですが、問題はユニフォームのナンバーが88であることです。「洗濯83回分の通常パックに5回分を増量した88パック」というのが普通の見解ですが、88というのは極右の間で「ハイル・ヒットラー」の略号として使われているコードで、(アルファベットの8番目はHで、HH=88はHeil Hitlerの頭文字)更にパッケージには「特別な白さのための新しい濃縮」(白さ=民族浄化、濃縮=収容所)という見方によっては非常に微妙なスローガンが印刷されていたので、ちょっとしたニュースになってしまい、販売会社は早々に限定パックの生産を終了することになりました。








ドイツの家具チェーン店が新商品のマグカップを1個1,99ユーロで売り出しました。白を基調とし、ピンクのバラ、筆記体の文字、レースの縁どりと切手が印刷されたロマンチックなカップです。しかし、その切手をよく見ると、何と総裁ヒトラーの横顔がモチーフの第三帝国30プフェニヒ切手で、ハーケンクロイツの消印まで付いているではありませんか。家具チェーンの責任者の話によると、「中国の委託製造業者に5千個のマグカップを受注したが、不幸なミスが重なってこのような製品が納入された。現地のマグカップのデザイン担当者は切手の人物が誰だか知らなかったようだ。」とのことです。中国から届いたマグカップをドイツの陳列棚に並べたスタッフも誰1人ヒトラーの切手に気付かず、175個ほど売れた時点で支店の販売員がカップの不思議な模様を発見して、急遽商品を棚から回収し、買ってしまった客には20ユーロ分の商品券で払い戻すから商品を返品してくれるよう呼びかけましたが、果たして何人が応じたのでしょうか。



ドイツの大衆紙「ビルトBild」の読者レポーターが、「ヒットラー敬礼をしているサンタクロースの置物」を発見しました。ショッピングセンターやドラッグストアチェーンで売られている大量生産の安物ですが、いくつかの店はこのサンタを陳列台から撤去することになりました。もっとも、このサンタに関してはビルト紙のこじつけであり、ナチス敬礼だと思えばそう見えないこともないが、敢えて言及するほどのものではないとして、逆にビルト紙が批判されました。





世界的に有名なアパレル会社「エスプリ Esprit」の新作コレクションカタログに出てくる皮製ボタンの写真がハーケンクロイツを連想させるとして、同社はカタログ20万部を回収することになりました。ボタンはイギリスの会社が製作したもので、何十年も前から同じデザインで世界中の服飾企業に販売されており、今まで一度も問題になったことはなかったということです。カタログを製作したスタッフも、誰かがそんな連想をするとは思わなかったと驚いています。これも反極右派のこじつけであるという見方が高い一件です。




このようにドイツでは些細なことであってもすぐにナチスと引っかけて問題にされるケースが非常に多く存在します。海外でもイギリスのヘンリー王子がナチスの軍服で仮装パーティーに出席したため政治的な大騒動に発展したり、パリス・ヒルトンがふざけてヒットラー敬礼をしてメディアに叩かれたりと、ナチス関連のネタは軽率な遊びでは済まされません。

ヒトラーの著書「我が闘争 Mein Kampf」は、ドイツでは出版禁止です。ドイツ以外の国では翻訳本が売られており、日本でも普通に入手することができます。出版物と言えば、日本の漫画にはしばしばナチスやハーケンクロイツが堂々と描かれています。水木しげるの「劇画ヒットラー」手塚治虫の「アドルフに告ぐ」など全編を通じてヒットラーを扱ったものから、「ジョジョの奇妙な冒険」「ヘルシング」「ゴルゴ13」「スプリガン」など部分的にナチス関連の人物やエピソードが登場するものまで様々です。これらは欧米用にハーケンクロイツを別の印に変えたり、ナチスを別の言葉に置き換えるなど部分的に修正されてから輸出されているようです。日本人読者が漫画として読むだけなら、格好いい軍服の登場人物が出てくる、程度の感覚ですが、ドイツ人やその他欧米人の中には非常に複雑な印象を受ける読者もいることは確かです。「キン肉マン」のブロッケンJrの、「ハイル・ブロッケン 残虐ファイトで・・・」というテーマ曲を、大人になって改めて聴くとなかなか際どいものがあります。

吉祥の印である万字紋も、ヨーロッパではハーケンクロイツと酷似しているという理由で避けられます。日本やアジアで地図上の寺院を表す万字を見てびっくりするヨーロッパ人も多いようです。日本には万字の家紋や市章もあり、そういった模様の服やアクセサリーを身に付けていても誰も気にしませんが、外国では勘違いされて法律違反になることもあります。ドイツへ行くときはわざわざ紛らわしいものを着ないようにしましょう。ドイツ国旗の付いたミリタリージャケットなども、ナチスとは関係ありませんがやめておいたほうが無難です。日本では合法なナチスやドイツ軍関係品もドイツでは違法なので、税関で厳しく取り締まりを受けることになっては面倒です。ドイツ人にナチグッズのコレクションを見せるなどの行為も、反感を買うだけです。褒め言葉だと思って「ナチスの科学は世界一チィィィィ!!」などとは口が裂けても言ってはいけません。「我がドイツの医学薬学は世界一ィィィ!」くらいなら大丈夫でしょうか。



追記:
ドイツではハーケンクロイツの使用は禁止されていますが、第三帝国の制服(軍服)そのものは禁止されていません。鉤十字やSSのドクロやルーン文字などを全て取り外せば自宅などで個人的に着用するのは自由です。公共の場に出るのは場合によっては罰せられることがあるので注意が必要です。軍服以外の軍装備品なども同様で、銃砲刀剣類所持等取締法による所有許可や届け出義務を守れば法律で禁じられているシンボルを全て外して所有することができます。






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