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イタリアの大晦日

一年の締め括りは
とびきり豪華な
ディナーパーティ


クリスマスが過ぎて心もお腹も疲れがたまってきたところに、今度は大晦日がやってきます。キリスト教の国々では、大晦日はクリスマスほど意味を持たないものの、やはり一年の最後の大切な日なので祝日のように過ごします。お店は普段より早めに閉まるので、用事は午前中に済ませてお母さんは来客や晩餐の準備をし、お父さんは車を洗ったり今夜着る服を選んだり、子守をしたりとやはり忙しそうです。

大晦日の過ごし方は人によって様々ですが、イタリアでは大抵家族や親せき一同が集まり豪華な食事をし、飲んだり踊ったりしながら年が明けるのを待ってスプマンテ(スパークリングワイン)で乾杯するのが一般的です。夜8時頃から始まる大晦日の晩餐は「チェノーネ Cenone」と呼ばれ、数日前のクリスマスメニューを更に上回る豪華な品々がテーブルいっぱいに並びます。その家のシェフ(親戚の集まりなら全ての家のシェフ達)が腕を奮って作ったありとあらゆるご馳走が、前菜、プリモ、セコンドからデザート、スナック、チーズやドライフルーツ・・・と食べきれないほど運ばれてくる光景は、一年の締め括りにふさわしい風物詩と言えましょう。いくつかのレストランでは12月中旬から大晦日のチェノーネのメニューを貼り出して予約を受け付けます。この日のための特別なコース料理で、安い店だと1人40ユーロ程度、高級なレストランなら1人数百ユーロのメニューも珍しくありません。子供用の特別メニューを用意する店もあるので、家族連れも自宅ではなくレストランで年越しをすることができます。チェノーネは予約制なので、観光客が大晦日に食事をしようと出かけて行っても断られることが大半です。ピザ専門のピッツェリアは31日は休業の場合が多いので、年末年始のイタリア旅行は少し注意が必要です。以前ピザ屋でなぜ大晦日が休みなのか聞いたら、「一体誰が大晦日にピザを食べるのさ、大晦日は腕を奮って豪華にコース料理を楽しむものだよ。それに、食事の後は踊りたい。うちはじゅうぶんなスペースがないから無理なんだ。」とのことでした。

ところで、イタリアの大晦日に欠かせない食材に「レンズ豆」があります。野菜やコテキーノ、ザンポーネなどというこってりしたソーセージと一緒に煮込んだレンズ豆は、目が眩むようなご馳走の前であまりパッとしません。しかしレンズ豆がコインに似ていることから、これを食べて新年の金運アップを祈るための縁起物として親しまれています。クリスマスの菓子パンである「パネトーネ」も、深夜0時の乾杯の際に発泡ワインと共に提供されるのが一般的なので、クリスマスの時期に年越し用に多めに買っておきます。それから、イタリアには大晦日に赤い色の下着を着るという習慣があります。これも幸運を呼ぶための縁かつぎです。年末になるとイタリアのブティックのショーウインドゥには赤い下着を着たマネキンが並び、何とも妖艶な雰囲気を演出してくれます。

深夜0時になったら「アウグリ!Auguri (イタリア語で“おめでとう”)」と言って、周囲の人と頬にキスを交互に3回します。イタリアでは3が縁起のいい数字なので、キスも左、右、と2回ではなく、もう一度戻って3回にしなければなりません。ドイツ人は0時になると外に出て打ち上げ花火をするのですが、イタリア人は家の中で引き続き飲んだり食べたり踊ったりするほうが性に合っているようです。
さて、2013年の12月に、顔なじみのトラットリアがチェノーネの張り紙を出しました。前菜盛り合わせから始まって、イノシシのラグーを添えた栗の手打ちパスタ、ゴルゴンゾーラとリンゴのクレープ、アーティチョークのフィリングを巻き込んだ子牛の煮込みやチキンの包み焼きにオレンジのソースと野菜を添えたもの、温かいアップルパイにバニラソースをかけたデザート、0時にはスプマンテとレンズ豆とパネトーネ。ワインとコーヒーも付いて値段は1人45ユーロとお得で、何よりどれも読んでいるだけでヨダレが出てきそうです。定員になる前に席を確保したいので予約の旨を店長に伝えると、ちょっと悲しい顔つきで次のような答えが返ってきました。
「毎年大晦日のディナーは満席で盛り上がるんだけど、今年は不況の影響でまだほとんど予約がないんだ。最小施行人数が集まったら特別メニューを用意するけど、それ以下だと通常メニューしか出せない。こんな年は今までなかったよ。今年はおかしいね。」

31日の夜、一応普段より華やかな服を着てお店に行きました。席は3分の1程度がカップルや家族連れで埋まっていて、それなりに賑やかですが、テーブルに並んでいるのはピザ。予約が少なかったため大晦日メニューはやはり中止になったそうです。しかし周りを見回すと、通常のコースメニューを頼んでいる人もおらず、ほぼ全員がピザ1枚と飲み物だけを注文しています。そして、食べ終わると会計を済ませて次から次へ帰ってしまい、夜10時を過ぎると店にはほんの数組のゲストしかいなくなってしまいました。普段の週末は夜10時から本格的に賑やかになるのに、今日は静まり返っています。これでは0時の乾杯も怪しくなってきたので、一応スタッフに今日は何時まで開いているのか聞くと「お客さんがいれば普段通り深夜まで営業するけど、みんな帰っちゃったら早めに店じまいします。」とのこと。11時を回った頃、残っているのは主人と私だけになってしまったので、仕方なく私たちも店を出ることにして会計をしました。
店長が出てきて、「こんなはずじゃなかったのに、ごめんね。0時になったらスタッフで乾杯するからそれまでその辺で座って待ってなよ。」と誘ってくれましたが、内輪のイベントに混ざるのも少し変な気がするのでお断りしました。店長と奥さんと一緒にその場で立ち話をしましたが、2013年、イタリアは税金の値上がりや経済危機の影響で、人々はみな財布の紐をゆるめなくなったそうです。以前は値段が高めのコース料理も頻繁に注文が入ったのに、ここ数カ月はピザと飲み物だけ、食後のコーヒーとデザートが付けば大振舞い、飲み物と席料を節約するために持ち帰りピザを注文する人も増えたそうで、イタリア人の日々の生活も大変なのだそうです。加えて、イタリア人は欧州共通通貨ユーロの導入前のイタリア・リラ時代の習慣が身に着いているのも家計のやりくりが上手くいかない原因だとか。当時イタリア・リラは激しいインフレを抱えており、毎年すさまじい勢いでインフレが進んでいました。50年代には1万リラ紙幣が最高額だったのに、1997年には50万リラ札が導入されたほどです。5百リラ札などは紙切れ同然の扱いでした。図は1980年から2000年まで20年間のドイツマルクとイタリアリラの換算レートです。(出典:fxtop.com)

強い通貨だったマルクに対してリラがいかに信用されていなかったかよく分かります。当時「あいつは奥万長者だ。」と言うと、「ああ、リラの億万長者だろう。」と返す冗談があったくらいです。それはともあれ、嵐のようなインフレ時代に、イタリア人は、生活の知恵として日用品から家具や車、不動産まであらゆる物をローンで買い、インフレに乗じて返済するという習慣を身に付けました。しかし2002年にユーロという強い通貨が導入されると、何でもローンで買えばいいという考えが通用しなくなりました。そして欧州経済危機の今日、イタリアの税金は上がり、給料は15年前より少なくなったのに借金は返済し続けなければならない、となると、外食費は当然削られるわけです。ミラノやローマなどの大都市では、経済危機などあまり関係のない富裕層が数百ユーロのチェノーネを楽しんでいるのでしょうが、地方の小都市で正しく税金を払っている市民は日に日に節約を迫られています。

一応赤系統の下着を着て出かけた大晦日。0時の乾杯は逃したものの、お店のスタッフ一同と3回ずつキスを交わしてきたので少しは新年の幸運を呼ぶことができたでしょうか。金運のレンズ豆を食べ損ねたので、遅かれながらお正月に自宅で調理しました。今年一年がよい年になりますように。






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