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ドイツでそけいヘルニアの手術をする 後編 

ヘルニア(hernia)とは、体内の臓器などが、本来あるべき部位から「脱出・突出」した状態を指す。 前編はこちら

手術の前日検診のため14時に病院に行くとまもなく外科医の先生の部屋に通されました。前回診察をした先生とは違う医者でしたが、カルテや当時の診断書が残っているので事情は分かっているようでした。さて、実際にそけい部に触れてみて診察をした結果は、「ヘルニアは見当たりませんが・・・」「でも痛いんです、確かにヘルニアの痛みなんです。子供の頃に経験した痛みと同じです。」「触った感じではヘルニアはありませんよ。前回の診断書にも書いてあります。ヘルニアの前兆が見られるって。前兆だから脱腸にはなっていません。」「でも本当に痛いんです。」「神経の病気かも知れません。又は、ヘルニアは外から触っただけでは分からないものもあるので、一番いいのはお腹の中を実際に見てみることですが、もしヘルニアがなかったら無駄に穴を開けたことになります。神経や精神的な架空の痛みであれば薬で対処する療法もあります。」「この痛みは確かにヘルニアなんです。」
ここで先生はオペの予定時間になってしまったので一度退室し、後でもう一度話し合うことになりました。廊下で前回診察をした先生に偶然会ったので事情を話すと、手術をしましょう、実際に見れば分かるから、ということでした。何だか完全には納得のいかない話だと思いつつも、予約は入れてあるしここまで来て何もせずまた痛みを我慢しながら家に帰るのもおかしいので、予定通り明日手術をするように手続きを進めることになりました。

まずは総合受付に行って名前や住所、緊急連絡先などを登録し、最初の1泊の入院の手続きをしました。次に上の階に行って麻酔医の診断を受けました。健康状態やアレルギーについての質疑応答や、歯の状態をチェックされました。人工的に酸素を入れる管を入れるため、口の中の状態を見るのが大切なのだそうです。中には入れ歯がグラグラしていたり歯の衛生状態がひどい患者もいて、手術中に突然歯が抜けてしまう事故もあるとか。麻酔のための検査の次は採血と着圧ソックスのためのサイズ測定、問診などがありました。手術で助手を担当する若い医師が来て、図や資料を使って細かい説明をしてくれました。1辺が15センチほどのメッシュを入れるTAPP法というドイツで最も頻繁に行われている定評のある手術法で、施術時間は30分から1時間程度ということです。全身麻酔で行うので最低1日入院、様子を見て2,3日入院するのがよいでしょう、と。1週間くらいは安静にして、メッシュの癒着を妨げないように、脚の付け根を90度以上に曲げたり長時間車に座ったりするのは避けましょう、10キロ以上の物を持ったり自転車に乗るのは2週間後から、最初のうちはぴったりしたきつめの下着を履きましょう、などの注意事項も聞きました。明日の朝は飲食をせずに8時に病院に来るように言われて、その日は実家に帰りました。

手術の当日病院に行くと、入院する個室の病室に通されました。まるでちょっとしたホテルのような部屋で、大きな窓、トイレとシャワー、クローゼット、冷蔵庫、薄型テレビなどの設備があり、バスタオルやハンドタオル、バスローブまで置いてあります。家から持ってくる必要はありませんでした。荷物を整理していると看護婦さんが麻酔の前にと飲み薬を持って来て、お腹とそけい部の毛を剃って着圧ソックスを履き手術着に着替えるように指示されました。決意を固めたとは言え恐怖症の主人はこの時点で死人のようでした。9時頃に看護婦さんが2人来て、主人はベッドに乗せられて手術室に運ばれて、私は病室で待つことになりました。

1時間、1時間半、2時間と時間が経過しても誰も戻ってきません。2時間半近く待ってようやく廊下から声が聞こえてきました。主人が看護婦さんと歓談しながら戻ってきて、無事両側のヘルニアを手術したとのことでした。しかも、痛かったのは右側なのに左側のほうが大きなヘルニアだったらしく、外から触ったり自分の感覚でも分からないことがあるのだとしみじみ思ったそうです。麻酔が効いているので痛みは感じず、昨日の夜から何も食べていないのでお腹が空いていると言って部屋に戻って10分もしないうちに食事をすることにして入院食を持って来てもらいました。今朝は恐怖で青ざめていたのに終わってみれば早速ごはんを食べる元気さが信じられません。看護婦さんも、「直後はみなさん普通は食べませんよ」とびっくりしていました。手術はどうだったのかと主人に聞いたら、「部屋に入ってすぐ何かガスを吸わされた。「あんまりいい香りじゃありませんね」って言ったら、「我慢して吸ってください」って言われて、そのまま気絶した。起きたら全部終わってて、麻酔から覚めるための部屋にいて、手の甲に点滴が付いてた。隣の人とおしゃべりしてたら先生が来たので「結局何でしたか」って聞いたら「両側のそけいヘルニアでした」だって。」

食事をして3時間くらい経つと、麻酔が切れてきて少し痛みが出てきたようです。更に、トイレに行きたいので看護婦さんを呼んで上体を起こしてもらうと、今朝からずっと寝たきりだったのに突然起きたので起立性低血圧で、同時に激痛が走って主人は顔色が土気色に変わり気絶しそうになってしまいました。看護婦さんが慌てて強力な飲み薬を持ってきて、それを飲むと1分も経たないうちに痛みが消えて顔色も平常に戻りました。再び体調が良くなったのでおやつのケーキとお茶をもらい、アイスが食べたいと言うので私は売店まで買いに行き、まるで子供のようです。夕食も普通に食べて、もう激痛やひどい立ちくらみもなさそうなので私は一度家に帰りました。



次の日の朝病院に行くと、土曜日でしたが午前中に医師の巡回診察がありました。先生が傷口を見て、きれいで順調だから今日退院してもいいけどどうしますか、と言います。しかし主人は個室の入院生活が気に入ったようなので、もう1日様子を見て明日退院することにしました。実際午前中はまだきちんと歩ける状態ではなく少しぐったりしていたので、明日は日曜日だし病室にも余裕があるようなのでゆっくり静養するほうが正しいでしょう。午後になると自力で着替えたりベッドから降りて廊下をゆっくり歩いたりできるようになり、順調に回復しているようでした。夕方には傷口に防水テープを貼ってもらいシャワーもできました。

3日目になるとさすがに退屈になってきたようで、退院するのが待ち遠しい感じでした。昼前にもう一度巡回診察を受けて、退院のための診断書を書いてもらい、腹腔鏡のカメラで撮影した手術の画像の入ったCDを受け取りました。スイスに帰る前に一度検査に来るように言われ、お大事に、と病院を後にしました。実家に戻ると階段も上り下りできるし、テーブルについて普通に食事もして、パソコンに向かってメールのチェックまでやっています。鎮痛剤も処方してもらいましたが飲むほどの痛みはないそうで、結局使いませんでした。その後も経過は順調で、数日後には車を運転したりスーパーで買い物をしたり、普段とほぼ変わらない生活です。



スイスに戻る前日に病院に行き、検査を受けました。先生は「やっぱりヘルニアでしたね」と苦笑いでしたが、主人は手術がほぼ無痛で終わり、その後の経過も順調なのが嬉しくて今までの恐怖やその他不快な話は全て忘れてしまったようでした。しかしここで問題発生。傷口は小さいのですが3か所あり、それぞれ1針ずつ縫ってあります。今日ここで抜糸してもらえると思っていたのに、抜糸するには最低14日間くらい置かないといけないので早すぎます、スイスでホームドクターに抜いてもらってください、と言われました。我が家は病院とほぼ無縁なのでホームドクターやかかりつけの医者などが存在しません。町医者でも誰でも抜けます、と言われましたが思い当たる医者がいません。困った先生が、「奥さんは手先が器用ですか?物腰が落ち着いているからたぶんあなたが抜糸できますよ。」と言いました。幸い私は視力と手先の器用さには自信があるので、抜糸の方法をその場で教わって糸を切る道具をもらい、帰宅したら自分でやりますと宣言しました。

700キロの道のりを走って無事スイスの自宅に戻り、術後14日が過ぎました。主人が抜糸する覚悟ができたと言うので私は手を消毒して、病院でもらった糸を切る小さな刃物と自宅の毛抜きでいざ出陣。糸の結び目と皮膚の間に刃物を入れてちょっと力を入れるとすんなり切れて抜けました。おへそにかかっている結び目は少し苦労しましたが、3か所全部で5分もかからずに無事全て抜糸できました。その後も化膿などせずきれいな状態なので正しくできたようです。術後1カ月も経つと傷あとは探さなければ見えないくらいで、重い物を持ったり走ったり、庭仕事やきつい姿勢での作業も何でもできるようになりました。メッシュが入っているのでもう脱腸する心配がないというのが一番嬉しいようで、別人のように生き生きとしています。

手術までの道のりは病院探しから診断まで何だかトラブル続きで大変でしたが、結果的には全てがうまくいきました。そけいヘルニア(ドイツ語の口語ではLeistenbruch)は中年以上の男性に非常に多い症状です。原因の分からない痛みで悩んでいる方は、一度病院で受診してみることをお勧めします。ちなみに費用は2泊3日で両側のヘルニアを腹腔鏡手術し、診察や諸経費を含めて保険なしの全額自己負担で2900ユーロ(約39万円)でした。


ドイツでそけいヘルニアの手術をする 前編





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